地学 Geology

 ビーチコーミングで歩く海岸は、海と陸との狭間(はざま)にあります。そして沿岸流や潮汐、それに風や河川が関わって、さまざまな海岸地形が出来上がります。海岸には、岩ばかりの磯、ごろた石とも言われる礫が多い礫浜、砂が多い砂浜と砂丘、泥と砂の干潟などの地形があります。

 また砂は河川によって運ばれるので上流域の地層と関連があります。そして浜辺の石ころは海岸近くにある大きな岩体や、古くからあった河川が運んだ礫との関連もあります。

 ビーチコーミングではプカプカ浮くものだけではなく、古くからの地球の営みを垣間見ることができます。

小さな石ころ、地球の欠片

メノウ 

 

 メノウ・瑪瑙は二酸化ケイ素を成分にする鉱物で、福井では坂井市の浜地海岸に美しい縞状の漂着メノウが見られます。

 これはあたりに岩盤となる火成岩があり、その空隙を通過する熱水が珪酸を運び込み、空隙の壁面に玉髄(ぎょくずい)を付着させるのを何度も繰り返してできたものでしょう。海底に流れ出た溶岩流などは、こうしたメノウを作るのには最適の環境かもしれません。

珪化木

 

 珪化木は大地に埋もれた樹木が、長い年月をかけて、地下水に含まれたケイ酸によって置換された化石です。

 そのたまに樹木の組織はそのまま残り、メノウ同様に非常に硬い二酸化ケイ素に置き換えられたものです。

 地層から洗い出された珪化木は、波に磨かれて硬い部分だけがきれいに残り、その表面には年輪も見られる状態になっています。

化石

 

 かって地球上に生きていた生物の骨や貝殻などの硬い部分や、足跡などの印象が、土砂に埋もれ幸運にも堆積岩中に保存されることがあります。それらは化石と呼ばれています。海岸近くに露出する堆積岩中に化石が含まれていると、化石が洗い出されて浜辺に転がっていることがあります。

 特に堆積岩中にノジュールやコンクリーションという硬い部分に化石となって含まれていることがあります。

軽石

 

 軽石は火山性の多孔質な岩石で、マグマが地中から吹き上がり、減圧状態になることで、マグマの中のガスが膨張し多孔質になったガラス質のもので、浮石や浮岩とも呼ばれています。軽石の色は白色から黒色近くまでバリエーションに富んでいます。漂着する軽石の中には海底火山の噴火によってできた軽石も多く含まれていることがあり、その分布や移動時間を研究することで、漂流物を運ぶ海流の研究にも結び付けることができます。

扁平礫(へんぺいれき)

 

 海岸を歩いていると、波打ち際や砂の上に円摩された扁平な礫が転がっています。水切りをするのには、こうした石を選ばなくてはなりません。

 扁平礫は、波が打ち寄せては返す前浜から沖浜にかけてのエリアで長時間磨かれて平滑で扁平な礫となります。

 こうした扁平礫は、ほとんどの砂浜にありますが、砂の中に埋もれていることも多く、常時見られるものではありません。

ヒライボ  Lithophyllum okamurae  (紅藻類)

 

 ヒライボは本来、この項目にある岩石や鉱物ではありません。もちろん、貝殻でも、サンゴでもありません。ヒライボは石や貝殻などに付着して、全体を覆い、イボ状の突起を出して成長するサンゴモという紅藻類です。ビーチコーミングで出会うヒライボは、このように白っぽいものですが、生きているやつはもっとカラフルです。

砂鉄

 

 砂鉄は、地球の上部マントルや地殻下部のような深部でマグマが徐冷して生じた、花崗岩や閃緑岩などの火成岩に含まれる磁鉄鉱などが、岩の風化によって洗い出され、淘汰され砂浜の分級化によって表面に露出してきたものです。

 福井県の敦賀半島の中部以北は花崗岩からなり、砂浜は花崗岩が風化してできたマサ土と呼ばれるものが淘汰されているために砂鉄が良く見られます。また、渥美半島の表浜海岸でも、白い石英砂の上に分級化によって黒い砂鉄が模様を描くことがあります。

さまざまな海岸地形など

 砂浜の模式的な形は、陸側の砂丘を下ると汀線(ていせん)が見えてきます。海の干満によって汀線が移動する範囲を前浜(まえはま)と呼んでいます。前浜にはビーチカスプが発達することもあります。台風や爆弾低気圧などにより暴浪が打ち寄せるあたりには打ち上げられた流木などが並んだり、浜堤(ひんてい)と呼ばれる砂の盛り上がりが見られるところまでを後浜(あとはま)と呼んでいます。後浜の海側には、汀崖(ていがい)や汀段(ていだん)が発達することもあります。前浜や後浜の砂が乾き、風が吹くと砂が飛ぶ飛砂(ひさ)が起き、それがたまって砂丘となります。

 

 汀線から沖へ向かい、海底に砂がたまっている部分を外浜(そとはま)と呼び、この部分にはバーと呼ばれる砂の高まりや、トラフと呼ばれる凹みが見られます。外浜の沖には、主に泥がたまった沖浜(おきはま)となります。外浜のバーあたりは高まりとなり水深が浅くなり波が砕けるため、砕波帯とかサーフブレークゾーンと呼ばれています。

 

 ビーチコーミングで浜歩きをする場合には、浜の仕組みを理解しておくと効率的なビーチコーミングができます。モノが寄り集まりやすいのは前浜の陸寄りにある満潮汀線沿いと、後浜の陸寄りにある暴浪汀線沿いです。普段歩かない浜の場合、この二つをチェックするのが最も効率的でしょう。

 

 

 磯は岩場とも言われる岩石海岸で、岩の露出した崖が見られます。岩は波浪の侵食を常時受けているために、化石を産する堆積岩の岩場は、化石採集者に喜ばれます。ただ砂浜に比べて水深が深いために、漂流物が岸に近づく前に流されてしまい、漂着物はそんなに多くありません。ただ、軽いものは風に乗って打ちあがると、磯がトラップになり再漂流しにくい傾向があります。

礫浜

 

 礫浜は砂浜の一部に発達することもありますが、磯のポケットビーチにできることが多いのです。磯の岩石海岸が浸食を受け、岩が細かくなり、それが波浪や潮汐によって磨かれて礫を生み出します。

 そんなわけで礫浜の礫(石ころ)は、磯を形作る岩体と同じ石がほとんどを占めています。礫浜も凹凸があるので漂着物のトラップになりやすいのです。

砂浜

 

 砂浜は、海水浴場にもなる広い砂を持つ浜辺で、砂浜ができるためには、それだけの砂を供給する河川がなければできません。そして風が砂を吹き飛ばして、浜の後ろに海岸砂丘を作ります。渥美半島の太平洋側に面する表浜海岸では、はるか東の天竜川が運んできた砂が運ばれたモノですし、福井の三里浜は、九頭竜川が運んだ砂によって作られたものです。

干潟

 

 干潟は、砂や泥からなる海岸で、斜度は極めて緩やかで、大潮の日には驚くほど沖合いまで海底が露出します。そんなわけで伊勢湾や三河湾にある干潟では春の大潮の日には潮干狩りの人出で賑わいます。こうした干潟には、砂や泥を供給する河川の存在が関わっており、河口部の芦原は興味深い生態系を持ち、ビーチコーミングでは陶片やガラス壜も見つかります。

ビーチ・カスプ  Beach cusp


 砂浜海岸にはさまざまな地形ができあがります。そんな地形の中で、目を引くものの一つにビーチ・カスプがあります。ビーチ・カスプは三日月の先端という意味がありますが、横から見ると写真のように砂礫が三日月が連なるように発達します。

 ビーチ・カスプの尖って見える砂礫の堆積した部分をカスプ・ホーン(カスプの角)と呼び、凹んで奥まで波が来ている部分をカスプ・ベイ(カスプの湾)と読んでいます。

 漂着物では軽く浮くものがベイの部分に集まりやすく、ビーチグラスや陶片はホーンの部分に集まります。

風紋・ウィンドマーク


 浜辺で一定の方向からの風が断続的に吹いたり、連続しているときに、風が砂粒を飛ばして、美しい風紋を作り出します。こうした形は水中でできるリップルマークと似ていますが、水によるのではなく、風が作り出すものです。

 写真は風下側から風上側を見たもので、波型の模様が連続的に連なっていきます。この波状模様は、風上側に向けて傾斜しており、風下側に断面が現れます。この様式は岸に打ち寄せる波と同様です。また風は細粒の砂から飛ばす傾向があるために、表面には粗粒砂や細礫が見られます。

漣痕・リップルマーク

 

 砂や泥といった細かい堆積層の表面を水が流れることにより、周期的な波状の模様が作られた規則的な微地形ができることがあります。

 写真は福井県敦賀市の赤碕海岸における砂浜の浅海底にできたもので、左が沖合い、右が汀線となります。ですからここでは、汀線と並行に規則的な模様が作られました。

汀崖(ていがい)

 

 砂浜は緩やかな傾斜をもって後浜を作ります。けれども、台風や爆弾低気圧の接近などにより、海が大きく荒れて大波が打ち寄せるのが続くと、ふだん波が洗っていた前浜の砂を浚い、後浜の砂を持ち去り、そこには垂直な崖を作り出すこともあります。こうした汀崖は1m以上もの段差を作り出し、漂着物が汀崖下に吹き寄せられ、密集することもあります。

海食崖

 

 海岸に迫った陸地が波浪などの侵食によって、切り立った崖になることがあります。そうした崖を海食崖と呼んでいます。

 渥美半島の表浜では海食崖が続き、特に豊橋市と田原市との境界あたりは崖の標高が50mを超すほど高くなっています。このあたりは砂利を含んだ柔らかい洪積層のため、風雨でも侵食が進むようです。

ラネル Runnel

 

 海岸に平行にできる細長い盆地(凹み)で、ビーチコーミングで浜辺を歩くと、干潮時に見られることがあります。

 渥美半島表浜の東部ではこれがよく発達し、満潮とともにどちらか一方から海水が多量に侵入して川の流れのようになることがあります。そんな条件の時に、海側からの風が吹くと、ラネルの陸側に漂着物がまとまって打ちあがることもあります。

砂州 

 

 海中の離れ岩であった場所に、多量の砂が沿岸流によって運ばれて集積し浅くなり、堆積した場所を言います。

 敦賀湾の水島は浦底半島の明神崎の南にあり、敦賀半島を形作る花崗岩が風化してマサ土となり、それらが海中で石英や長石といった白っぽい鉱物になって堆積し、水島周辺の美しい景観を作り出しています。夏の海水浴シーズンには渡し舟が出ています。

陸けい島

 

 砂州(さす)によって陸地とつながった島のことを言います。

 陸地の近くの島によって、沿岸流が砂などを運び、陸地と島との間に堆積して砂州を作り出し,島と陸地をつなぎ長い時間をかけてこうした地形になりました。この砂州の部分をトンボロと呼び、写真の敦賀市杉津では、砂州の上に集落ができています。

砂丘

 

 砂浜の砂が、強い風にさらされると、飛砂となって移動します。このとき細かい砂から飛び始めるので、飛砂によって砂が失われた浜の表面には細かな礫や小石が残ります。飛ばされた砂は、地形などによって溜まりやすい場所があり、それが発達すると砂丘を形成します。写真は渥美半島の豊橋市にできた小規模な砂丘ですが、斜面は30度ほどになり、サンドスキーができます。

柱状節理(ちゅうじょうせつり)

 

 福井県坂井市の三国港近くにある東尋坊や雄島、越前松島あたりでは、玄武岩質安山岩のマグマが海底から出現し、それが冷却するときに規則的な収縮による割れ目を作りました。まるで材木が積み重ねられたような、見事な柱状節理は、今からおよそ1300万年前に起きたものといわれています。

タフォニ  Tafoni

 

 海水が岩に染み込み蒸発を繰り返すとと、岩の小さな隙間に塩の結晶を作ります。この結晶が大きくなると、岩の隙間も大きくなり、岩の表面に凹みを作り出し、このような蜂の巣状の模様を作り出します。越前海岸や渥美半島表浜の砂岩などの上に見られることが多く、堆積岩上にできると、生痕化石と間違えやすくなります。

海岸浸食

 

 暴浪が砂浜を襲うと、砂丘が浸食されて削られ、浜崖ができることもあります。冬の荒れが続き、暴浪が断続的に浜を削ると大きな浸食が起こります。

 写真は福井市三里浜砂丘西端にある鷹巣海水浴場です。lここでは砂丘のあった位置に駐車場を作りましたので、大きな浸食が起きると砂が流され、駐車場のアスファルトがオーバーハング状態になるまで削られることがありました。2011年の冬は電柱が傾くほどに浸食が起きました。

分級化 ソーティング

 

 海は波の力で漂着物を選り分けます。漂着物は波にもまれているうちに、形状や浮力の違いによって、グループ分けされて、海岸に漂着することがあります。浜辺で同じサイズや浮力を持ったものが集まっていることがあります。

 ビーチコーマーが喜ぶ貝ラインなどもこれによって選り分けられたものです。写真は野球ボールばかりが選り分けられた例です。

けあらし 蒸気霧


 けあらしとは、北海道の方言からきた言葉で、冷え込みが強まった日に、空気が冷やされ、その冷やされた空気が暖かい海面上に流れ込むと、水蒸気の急激な蒸発により霧が発生することで起こります。
 けあらしの発生は朝方が多く、日が昇り気温が上昇するに伴って消えることが多いのですが、思いっきり冷え込んだこの日は、16時の気温が1.9度。浜辺はもう少し暖かく3度ほどでしたが、海水温との差が10度近くあったために、夕方でも見られました。

弁当忘れても傘忘れるな!

 これは福井をはじめ、北陸の各地で冬場に言われる諺です。

 上の4枚の写真は、福井県美浜町で12月のある日、およそ20分間の天気の移り変わりを左から時間とともに並べたものです。

 ●左 お天気は良かったのですが、急に雲が流れてきて霙が降り出しました。

 ●中左 雲がもっと厚くなり、土砂降りの雨が降ってきました。かすかに遠雷も聞こえてきました。

 ●中右 雲が流されればまたキレイな青空が!

 ●右 また雲も厚くなりましたが、切れ間からお日様も出ました。今日も渚で日が暮れました。

 

 冬場の北陸でのビーチコーミング、お天気も楽しめます。風も強いので傘だけでは役に立たないかも知れません。ゴアテックスの雨具をを用意されるのが一番かと思います。

サンバースト  Sunburst

 

 この言葉が、気象用語で定着しているかは分かりませんが、急に雲間から強い日光がさすことを言うそうです。秋から冬にかけ、お天気の変わりやすい北陸では写真のような現象が時折見られます。高層雲が少しある日に、低い雲が現れると夕焼けは隠れてしまいますが、雲が薄いとこうした色合いがでます。これがまさに有名なエレキギター、ギブソン・レスポールの塗装にあるサンバーストの色合いなのです。

線状降水帯と漂着物

 

 線状降水帯とは、積乱雲が線状に次々に発生し、ほぼ同じ場所を通過・停滞する自然現象です。そのために非常に強い雨が特定の地域に長時間連続して降り続けることになり、それによる増水や洪水などを引き起こします。線状降水帯と言う言葉は、2014年の広島での大雨以降頻繁に使われるようになりました。地球温暖化が進んでいる今、水の循環によっておこる現象が極端になっており、今後も増えそうですね。

 さて、2022年9月23日静岡県の中・西部では線状降水帯が発生し、1時間に120㎜を超す降雨エリアもでき、「顕著な大雨に関する気象情報」も発令されました。23日の降雨量は浜松で280㎜、天竜で264㎜、磐田で213㎜、静岡で246㎜となりました。これによって静岡県中・西部では保水力を失った山地の土砂崩れや洪水が発生し、1週間以上の断水地域もあったようです。

 こうした洪水により大量の土砂や瓦礫、それに流木などは河川に流れ込み、太平洋へと注ぎ出ました。静岡県の中・西部の大きな河川には大井川と天竜川があります。そうした河川流域から出た流木や瓦礫は太平洋に出た後、西へと進みました。そして9月25日の午後には豊橋市高塚海岸で大量の流木が漂着し始めました。翌26には豊橋市伊古部海岸は流木に埋もれ、27日午後には田原市の赤羽根ロングビーチでも確認されました。

 9月30日、渥美半島表浜を高塚海岸から伊良湖岬にかけて調査してきました。膨大な流木系のゴミや瓦礫が前浜と後浜との境目に繋がり帯状になり続いていました。磯などの一部地形により漂着の少ない場所もありましたが、ほとんどの砂浜では帯状に繋がった流木帯が確認できました。


     流木が帯状に続く豊橋市高塚海岸       伊良湖岬の恋路ヶ浜でも流木帯はできていました


  8m程の流木が横たわる豊橋市伊古部海岸          流木が積み重なる田原市大草海岸


 流木がまだ浮かぶ赤羽根で元気なサーファーたち    観光地の恋路ヶ浜もこの通り流木に埋もれてました


  新しいアルミホイールやタイヤは洪水の産物     何とアルミのサッカーゴールまで漂着しました


     静岡県内の東海自然歩道の標柱            島田高校のサッカーボール

 

 ご覧のように渥美半島の太平洋側(通称表浜)一帯はこうした流木の大量漂着がありました。これまでも大雨による洪水で流木が来たことはありますが、これほどの量は初めてでした。

 今回の漂着で目立った点を列記してみます。

・「島田」、「磐田」など地名の分かった漂着物があったことから、多くは天竜川水系、大井川水系から流れ出たもののようです。

・東海自然歩道の標柱、それに根と樹皮の付着した10m以上の杉材や、緑色の竹、根のついた広葉樹も目立ったことから、山間部では土砂崩れも発生していたようです。

・23日の大雨から24日の洪水、25日の午後には豊橋市に到達しているわけで短期間に移動しており、かなり速度のある沿岸流が流れていたようです。こうした短期間で届いたためにエボシガイ類などの付着は見当たりませんでした。

 

 大量に漂着した流木などに今後行政側がどのような対応をするかは分かりませんが、この漂着を災害と捉える人は多いでしょう。ただ私はこれから西風の強まる冬を前にして、流木などが砂の移動を妨げる働きをして、朽ちていく木材などが新たな海岸の生態系の出現にならないか、微かに期待しています。